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冬期に注意すべき感染症とその対策について
 冬期に注意すべき感染症として、RSウイルス感染症、インフルエンザ、感染性胃腸炎が上げられます。RS感染症は9月よりみられ始め、寒くなるにつれて徐々に増え、12月がピークとなります。インフルエンザは12月末から始まり、1月下旬〜2月初旬にA型のピークを向かえ、3月〜4月にはB型の流行が現れます。流行の規模(大きさ)はインフルエンザが圧倒的であり、とくに重要な感染症です。
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RSウイルス感染症

 最近2-3年のRSウイルスは8月から検出され始めています。全国的にも毎年報告例が増加し、また報告日も早まっています。RSウイルス感染症について知られるようになったことや迅速診断キットの普及が影響しているのかもしれません。

 図2はRSの症状が年齢によって大きく異なり、とくに幼弱なほど重症になりやすく、また、感染が繰り返され、そのたびに症状が軽くなる様子を示しています。およそ3歳を境に、それ以上では、上気道炎症状である鼻水や鼻閉だけがみられますが、3歳未満では、上気道炎に加え、高熱、湿性咳、喘鳴等の下気道炎症状が現れます。とくに、多呼吸、陥没呼吸、チアノーゼ(顔色不良、口唇等が紫色)は危険な兆候で、酸素投与や入院管理の適応となります。母親からの移行抗体(母親は自身の経験した感染症の抗体を妊娠後半期に胎児に分け与えることができる)は効果がなく、1歳までに70%、3歳までに100%の乳幼児がRSに罹患すると言われています。なお、潜伏期間は2〜5日間であり、軽快まで1-2週間かかります。

 ワクチンや抗ウイルス薬はないので、気管支拡張薬、ステロイド薬、解熱薬、去痰薬等の対症療法が中心となります。周囲の感染者を確認することも重要です。兄や姉が鼻炎だけなのに、乳幼児の弟や妹が肺炎になることもありますので、1歳前後の乳幼児に、鼻水ダラダラ、呼吸ゼイゼイ、お熱フーフーがみられる場合にはこの疾患を念頭におき、早めに対処するようにしてください。

 図3は、鼻咽頭腔のウイルス量の変化とRSウイルス感染による症状の推移(病勢)をインフルエンザ(タミフルなど抗ウイルス薬を使わない場合)と比較したものです。ウイルス量は両方のウイルス間では変わらはないと考えました(棒グラフ)。一方、線グラフで表した病勢は、インフルエンザが早期から強い症状を訴えるのに対し、RSウイルス感染では、鼻炎から徐々に症状が進行し、3-4日目に咳や喘鳴のピークを迎えます。RSでは、最初症状が軽いからといって安心しないで症状の推移を注意深く観察する必要があります。また、迅速診断キットが陽性になるには、ある一定のウイルス量が必要です。RSウイルス用の診断キットはインフルエンザ診断キットよりも性能がかなり悪いので、病初期に陰性だからといって気を緩めてはいけません。症状の改善がみられないときは、再検査が必要です。

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季節性インフルエンザ

 インフルエンザは普通の風邪(多くはライノウイルスによる咽頭痛、咳、鼻水)よりも症状の出現が急であり、また強いのが特徴です。1〜5日間の潜伏期間の後、高熱、筋肉痛など全身症状が突然現れます。発症後にはタミフルなど数種類の抗ウイルス薬が有効ですが、予防対策としてはワクチンによる抗体獲得しかありません。

 インフルエンザにはA型とB型があり、必ずA型が先に流行し、B型がそれに続くといわれています。また、A型、B型それぞれに2つずつの亜型あるいは亜系統(サブタイプ)が存在します。たとえば、A型には、AH1型(新型)とAH3型(香港型)が、B型には、ビクトリア系統と山形系統です。毎年、それぞれのサブタイプが組み合わさることで流行が形作られています。2017/18年シーズンはとても珍しく、A型の流行は極めて小さく、B型の大流行が見られました。

 今季も4価ワクチンが導入されました。4価とは、A型のサブタイプ2種、B型のサブタイプ2種からそれぞれ、WHOや感染症研究所の流行株情報を参考に流行予測に則って1種類ずつ選択し、4つのサブタイプを合わせることでワクチンを構成しています。ワクチン接種のタイミングは、A型の流行に合わせて計画します。つまり、小児の場合、2回目の接種は遅くとも12月の下旬までに終了しておくのがよいとされています。

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感染性胃腸炎

 ロタウイルスやノロウイルスによる胃腸炎もまた感染を繰り返します。例年インフルエンザの流行する1〜3月の前後、つまり12月や4〜5月に流行がみられます。乳幼児を中心に感染するロタウイルス胃腸炎は、近年経口生ワクチンが導入され、以前のような大きな流行がみられなくなりました。一方、ワクチンのないノロウイルスは、どの年齢層にも胃腸炎や食中毒を起こしています。

感染症の予防対策

 RSウイルスやインフルエンザのような呼吸器系ウイルスはいずれも咳、くしゃみ、唾液などによる「飛沫感染」や「接触感染」が主な感染様式です。予防法としては、マスクの着用、外出や帰宅後の手洗い・うがい・着替え、部屋の加湿、十分な休養とバランスのとれた栄養、人混みへの外出を控えるなどがあげられます。一方、ロタウイルスやノロウイルスのような腸管系ウイルスでは嘔吐物や糞便も感染源になるため、感染様式は「糞口(ふんこう)感染」と呼ばれています。多量のウイルスを含む感染者の吐物・糞便の処理には、使い捨て手袋などを使用して素早く行い、その後の手洗いなども適切な消毒法を選択することで感染拡大を防ぐことができます。

 呼吸器系ウイルスは、石けんなどの界面活性剤やアルコールで簡単に不活化されてしまいます。一方、消化器系ウイルスはアルコール消毒では効果がなく、次亜塩素酸ナトリウムによる消毒が有効です。

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