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夏季特有のこどもの感染症について

夏風邪に注意しましょう!

はじめに

 ヘルパンギーナや手足口病に代表される夏風邪(なつかぜ)、とびひ(伝染性膿痂疹・のうかしん)、みずいぼ(伝染性軟属腫・なんぞくしゅ)などの皮膚感染症、そして食中毒(食物からヒトへ感染する)あるいは感染性胃腸炎(ヒトからヒトへ感染する)が夏季特有の感染症として知られています。

 

原因となる微生物の視点から、夏の感染症を考えてみましょう。

 感染の引き金になる微生物には、細菌、ウイルス、マイコプラズマ、寄生虫、真菌などが知られています。冬期の食中毒や感染性胃腸炎の流行は、ロタウイルスやノロウイルスがよるものが大半ですが、夏季では病原性大腸菌(O-157など)、サルモネラ、カンピロバクターなどによる細菌性胃腸炎にも注意する必要があります。また、皮膚の感染症である「とびひ」は、黄色ブドウ球菌や溶血連鎖球菌(溶連菌)という細菌が悪さをします。さらに、「みずいぼ」の原因は、伝染性軟属腫というウイルスです。

 一方、夏風邪はエンテロウイルス(コクサッキー、エンテロ、エコーなどを含む)やアデノウイルスというグループに属するウイルスが原因です。

  

「夏風邪」はいろいろなウイルスによって引き起こされます。

 夏にひく風邪を「夏風邪」というわけではありません。夏風邪は、「普通の風邪」と症状が異なるだけではなく、原因となるウイルスが全く別です。普通の風邪はほとんどがライノウイルスによるものです。その主な症状は鼻水、咳、喉の痛みと1〜2日間続く38〜39℃程度の発熱です。一方、夏風邪の原因はコクサッキー、エンテロ、エコー、アデノなど多種多様のウイルスであり、症状もまた普通の風邪との間に大きな違いがあります。つまり、夏風邪は鼻水や咳は軽く、舌や口腔に口内炎がみられ、身体にも皮疹が出現します。また、発熱はみられないものから、逆に40℃以上の高熱となる例があり、発熱の期間も3〜7日間と長いことがあります。さらに、髄膜炎、脳炎・脳症などの中枢神経の合併症を引き起こしやすいなどの特徴もあります。

もう少し詳しく

夏風邪その1:「手足口病」とは?

 手足口病という名前は、手の平、足の裏、口の粘膜に赤い丘状の皮疹や水疱がみられることに由来しています。50年以上前から、コクサッキーウイルスA群16型とエンテロウイルス71型という2種類のウイルスが2〜3年周期で交互に流行を繰り返してきました。しかし、近年コクサッキーウイルスA群6型による新しいタイプの手足口病が出現しました。松本地域でも、2013年夏はエンテロウイルス71型とコクサッキーA群6型による手足口病が大流行しました。

 乳幼児が罹りやすく、手足の先以外にも、肘や膝、臀部や肩にまで発疹がみられることがあります。また約70%の例は、発熱がみられないため、高熱例や発熱が持続する例ではウイルス性髄膜炎を心配する必要があります。

 一方、新しく登場したコクサッキーウイルスA群6型による手足口病ですが、古いタイプの手足口病とは症状が少し異なっていることがわかりました。つまり、熱のない例はむしろ少なく、60%以上の例が38.5℃以上の熱で医療機関を受診していました。皮疹も手足だけではなく、お腹や背中までみられ、さらに大きな水疱のために「水痘(みずぼうそう)」と見間違える例がありました。とても変わった経過として、手足口病が治癒して2-4週間も経ってから爪に白い線ができ、爪が取れた例が散見されました。

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夏風邪その2:「ヘルパンギーナ」とは?

 ドイツ語のヘルペス(水疱)とアンギーナ(喉の痛み)が語源です。手足口病と同じウイルスの仲間である、コクサッキーウイルスA群4型、6型、2型、10型などが原因ですが、手足口病よりも多くのコクサッキーウイルスが原因として知られています。コクサッキーウイルスA群6型や10型は、手足口病とヘルパンギーナの両方の原因になることがあり、ウイルスの持つ不思議さを実感します。

 症状の特徴は、40度近い高熱と口の中、とくに口蓋垂(のどちんこ)周辺の水疱と口内炎です。乳児では喉の痛みのため唾液を飲み込めずに涎(よだれ)が多くみられます。発熱期間は1-3日以内が多いです。

 

夏風邪その3:「咽頭結膜熱」とは?

 アデノウイルスは50種類以上のタイプがあり、咽頭炎〜肺炎、胃腸炎、結膜炎、膀胱炎、発疹症など様々な病気を引き起こします。咽頭結膜熱は、アデノウイルス3型や4型が原因です。プールで感染したと思われる場合が多いため、別名「プール熱」とも呼ばれていますが、プールの水を介するのか(十分な塩素消毒下では死滅します)、タオル等の共同利用によるのか、飛沫・糞便あるいは濃厚接触によるのかなど、感染経路には賛否があります。典型例では、3〜7日間続く高熱とそれに伴う咽頭炎や結膜炎ですが、結膜炎を認めない例も多くみられますので、「アデノウイルス感染症」と総称されています。典型例では熱は1週間近く続きますが、午前中は解熱し、夕方から夜にかけて発熱する傾向があるため、食欲や全身状態は比較的良好に保たれます。診断には症状だけではなく、アデノウイルスを抗原とする迅速診断キットが使用されることがあります。2016年夏、県内でアデノウイルス5型という珍しい型が流行し、急性脳炎、不明発疹、咽頭結膜熱などを発症しました。今夏も流行する可能性があるので、高熱、嘔吐、強い全身倦怠、痙攣などが見られる例ではとくに注意する必要があります。

 

治療や家庭での対応は?

 夏風邪には細菌感染症やインフルエンザのように抗菌薬や抗インフルエンザ薬といった薬がないため、安静や解熱薬を中心とした対症療法が中心となります。また、ワクチンもありません。ハンカチやタオルなどは共有せずに個人専用のものか使い捨てを使用し、帰宅時、トイレ後、食事の前後などの際には手洗いやうがいを敢行しましょう。

 口内炎や強い咽頭炎のために水分や食事の摂取が不良となり、脱水症状を起こしやすいので水分・食事管理が重要です。発熱以外に、何度も嘔吐する、ぐったりしている、おしっこの回数や量が少ない、けいれんや意識がぼーっとしている、などの症状がみられた場合は髄膜炎、脳炎・脳症、脱水症などが疑われますので速やかに医療機関を受診してください。

 

登園・登校の目安は?

 園児では感染予防策が取りにくいため、児童や生徒よりも細かい目安を設定して対応することがあります。

 咽頭結膜熱(アデノウイルス感染症)は、「発熱、咽頭炎、結膜炎などの主要症状が消退した後2日を経過するまで」とされています。ただし、「学校医、(園医)やかかりつけ医が感染のおそれがない」と認めたときは登校/登園することができます。手足口病とヘルパンギーナはともに、学校では、「学校医やかかりつけ医などによって感染のおそれがないと認めるまで」とされ、具体的には「本人の全身状態が安定している場合は登校・登園可能ですが、手洗い(とくに排便後、排泄物の後始末後)をしっかりすることが重要」とされています。一方、保育園や幼稚園では、「発熱がなく(解熱後1日以上経過し)、普段の食事ができること」が目安です。熱がなく、全身状態がよく、食事がとれていれば手足口病、ヘルパンギーナともに集団生活に復帰してよいと判断できます。便からのウイルス排泄期間が長い疾患である夏風邪では、流行をくい止めようとして長期に登園(校)を停止する対策は現実的ではありません。なお、手足口病では、身体に発疹が見られていても登園(校)停止する必要はありません。

 

さいごに

 松本市では、応急手当の手引、「お子さんが急病になったとき、2013年版(松本市医師会監修)」を発行しています。発熱時や脱水時の対応、熱中症、具合がわるいときの食事の進め方、主な感染症の登園・登校の目安など家庭で役立つ知識を掲載していますので、ぜひご活用ください。

 病院や診療所の検査では、「ウイルスの型」までは検査・診断はできませんが、重篤な症状や流行が顕著なときは、保健所などの行政機関から発表がありますので、ぜひお子さんの健康管理の参考にしてください。

 

「お子さんが急病になったとき」専用Webサイト: http://www. mcci.or.jp/www/ishikai/

冊子のお問い合わせ先:松本市役所・医務課(34-3262)、松本市医師会 事務局(32-1631)

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